January 2024
M&Aプロセスの概要
目次・M&Aとそのプロセスとは・1. プレディール(M&A戦略の策定→ターゲットの特定→事前検討)・2. ディール (基本合意書締結→デューデリジェンス→買収契約書締結→クロージング)・3. ポストディール Merger(合併)&Acquisition(買収)とは、企業や事業の全部、またはそれらの一部事業単位を他企業や事業へ統合または移転することです。M&Aと一口で言っても様々な形態がありますが*1、M&Aの目的は、企業の技術力・人材力等の経営資源獲得にかかる時間の短縮、新規事業へのスムーズな参入や事業領域の拡大等の経営課題の解決や事業成長の加速といった経営戦略実現のための手段であり、その目的は多岐に亘ります。主に、事業規模の拡大や規模の経済性を確保することや、事業を多角化、サービスや技術の獲得、ビジネスの性質を変えること、新しいビジネスモデルを構築することが挙げられます。事業ポートフォリオを整理し、得意とする事業分野に集中させるといった目的もありますし、また近年では、家督を継ぐ経営者がいないことや、後継者はいるものの自社株を買い取る資金がないといった理由によるM&Aが増加しています。M&Aの行うにあたっては、様々な手法が取り得ます。狭義では、合併・買収を指しますが、広義では、資本参加や合弁会社設立等多岐にわたります。その都度、最適な手法を選択します。 *1 M&Aの形態 M&Aプロセスはステージ毎に見る場合、対象会社・ターゲットへ接触する前の①プレディールの段階、ターゲットへ接触し案件のクロージングまでの②ディール実行の段階、そしてクロージング以降の③ポストディールの段階の大きく3つに分けることができます。 1.プレディール (M&A戦略の策定→ターゲットの特定→事前検討)M&A戦略の策定:M&A検討にあたっては、まず自社の成長戦略を策定するところから始まることが多いです。中長期的なビジョンとそれを実現するための企業・事業戦略を検討し、その手段としてM&Aが検討されます。オーソドックスなM&Aの進め方としては、中長期ビジョン及び企業・事業戦略を踏まえてM&Aを検討するマーケットの分析を事前に行う事が多いです。マーケット規模・成長性、自社のポジショニングを整理します。現在の立ち位置と向かうべき方向性を明確にし、それを実現する手段としてM&Aを実施します。 ターゲットの特定、事前検討:M&A戦略の策定が終わると、企業の目的に適した戦略的に相乗効果が考えられるターゲット企業の候補を洗い出します(以下、”ソーシング”)。ソーシング調査により、条件に見合う企業のロングリストを作成します。ロングリストは、主にデスクトップ調査等により公表されている情報を情報源としてM&Aの目的に合致している企業をリストアップすることです。買い手であれば、M&Aにより取得したいもの、ケイパビリティを持つ企業をどこかという視点でリストを作成し、売り手であれば、高い買収金額を提示してもらえそうな企業はどこかといった視点や、従業員を大切にし、自社の強みを伸ばし弱みを克服するための最適な企業はどこかという視点で作成します。更にデスクトップ・インタビューベース等で調査を進め、リストを絞り込みます(ショートリスト化)。ショートリストが完成したら、次にどのようにアプローチするのが適切かを考えます。証券会社やコンサルティング会社等を経由してコンタクトする場合もあれば、直接アプローチする場合もあります。 2.ディール (基本合意書締結→デューデリジェンス→買収契約書締結→クロージング)ディール実行の段階は売り手と買い手との交渉が開始されてから、最終的な売買契約が締結され、指定された方法で対価の支払いが行われて売買取引が完了するまで、つまり、基本合意のための交渉が開始されてから、ターゲット企業が買い手のものになるまでにプロセスを指します。 基本合意書とは、デューデリジェンス(買収監査)を実施する前に、売り手と買い手が合意する基本的な条件について定めた契約書です。Letter of intent(LOI)やMemorandum of understanding(MOU)と呼ばれ、締結目的は案件によって様々ですが、主に交渉内容やスケジュール等の認識を明確にし、スムーズに交渉を進めることを目的とし締結されます。基本合意書には、秘密保持や独占交渉権などの一部の内容を除き、法的拘束力がありません。それは、あくまででも基本合意書が暫定的な仮契約であるという位置づけのためです。仮契約とはいえM&Aのプロセスにおいて非常に重要な役割を果たします。基本合意書を合意しないまま、デューディリジェンス(買収監査)に応じた場合、例えば、売買価格の目安を確認できませんし、相手の本気度合いを書面上で確認することもできません。 デューデリジェンス(買収監査):基本合意書締結後は、ターゲットとしている対象企業のリスクを把握し、対象方法を検討するための詳細な調査、デューデリジェンスを行います。基本合意は、これまでターゲット企業が提出した資料や説明した内容を前提としていた仮契約という位置づけでしたが、買い手は、説明された内容や資料が”本当に正しいのか”、”狙いとしているシナジー効果生み出すことが本当に可能なのか”等を確認する作業を実施します。デューデリジェンスには、いくつかの種類があり、一般的にはビジネス・事業計画・法務・財務・税務・ITセキュリティの観点でデューデリジェンスを行います。・ビジネスデューデリジェンス:事業内容(購買・製造・販売・組織・人事・システム等)一般事項について資料の請求、インタビュー等を通じて確認します。・事業計画(財務予測):対象会社が策定した財務予測を分析します。対象会社の財務予測の信頼性を評価した上で、買い手が見立てた事業計画を策定します・法務デューデリジェンス:対象会社が取引先と締結した重要な契約、許認可の状態、労働実態等を確認し、出資後に制約となるような契約や未認識の債務や法律違反がないかを確認します。・財務・税務デューデリジェンス:会計・税務上の観点から未認識の債務調査や瑕疵の有無を確認し、また過去の財務諸表の正確性と完全性を確認します・ITデューデリジェンス:事業、サービス運用上必要なシステムや社内管理システムやITガバナンスの状態を確認し、特事業リスクを評価します 売買契約書の締結:デューデリジェンスの報告に示された発見事項に基づいて基本合意書で締結した価格が修正されます。さらに買収価格だけでなく、その他の条件についても交渉を進めます。この段階では、最終合意書の記載事項となる要素を交渉によって纏めます。両者間で取り決めた事項について、抜け漏れがないいよう最終合意書に盛り込むことが重要です。主要な契約論点をまとめたものを”タームシート”と呼び、タームシートで合意後に契約書案の交渉に移るほうが枝葉の論議に時間を費やさずに済みます。 クロージング:経営権の移転を完了させる最終的な手続きの事を指します。株式譲渡の場合は、株券の引き渡しとその対価の支払い等がクロージングとして必要な手続きになります。 3.ポストディール買収後の統合プロセスは、PMI(Post merger integration)と呼ばれ、M&Aによるシナジー実現のための統合計画の策定とその実行になります。この重要なフェーズでは事業の統合以外にも、組織・人事制度の統合や会計・システム、文化の統合を行う必要があります。一般的にM&A等の成功率は30%程度と言われており、失敗の主な原因にPMIにおける失敗が挙げられます。そのため、PMIを成功させるべく、一定の期間で一定のレベルまで確実に実施することを重視している企業が多いです。買い手の管理方法などを一方的に実行するのではなく、対象会社の状況や、各社社員の心情にも配慮しながら進める必要があります。相手方の事業を理解し、相手方の理念や価値観等を尊重し、一緒に進めていくことが重要になります。統合日(Day1)からシナジー効果を発揮するためには、統合日(Day1)から統合計画を検討するのでは遅く、それ以前から準備する必要があります。統合計画が基本合意の検討段階から検討するのが望ましいといわれています。